微生物の固体培養法
微生物の固体培養法の限界とその打破を目指して
今後の研究のテーマとしてバイオフィルムに含まれる微生物の培養を始めることになったので鎌形洋一さんの総説を自分なりにまとめます
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jssm/71/1/71_2/_pdf/-char/ja
要 旨
現代微生物学は微生物を「純粋に分離・培養する」ことから始まる
固体培地でコロニーを形成させる手法は1890年代に出来上がり、いまなお色褪せない
一方、環境微生物の多くは寒天培地にてコロニーを形成しない問題も古くから知られている事実である
しかし、この問題の十分な検討が行われているわけではない
ゲノム解析により未知微生物のゲノムが解き明かされる時代だが、微生物を培養する重要性はいささかも揺らぐことはない
この総説では固体培地に用いるゲル化剤の種類や培地の調整法といった極めて根源的なところに潜む問題点を概説する
1.現代微生物学の源流となった固体培地による「純粋分離と培養」
- 現代微生物学の歴史は150年程度(他の学問に比べればまだまだ新しい)
- 始まりは「病原性微生物を純粋に分離・培養し、その微生物が病原性を持つことの証明をする」ことを目的とした
- 古典微生物学から現代微生物学へと変貌した最大の発明は、ペトリ皿を用いた寒天培地による固体培養法、である(今日でも最も汎用的な培養法)
2.固体培地による純粋分離がもたらした限界
- 寒天培養は「一つの細胞を寒天培地の上においたとき、そこから倍々で増えてくる微生物の遺伝形質は均質(クローン)である」ことを大前提としている
- (最新研究では必ずしも均質でないという結果も得られつつある)
- しかし、早い段階から研究者は寒天培養で生育しない微生物が多数いることが経験的に感じていた
- ごくありふれた環境中の微生物ほどその大部分が分離・培養できないのは自明のことと認識されるに至った
- 原核微生物の分類には基本的に特定の遺伝子の類似度で語られている
- 推定値として述べられる微生物の種数は数千万あるいはそれ以上の数でである(正式に命名登録された種の数は1万種強)
- 一方、日々急速に蓄積されつつある微生物の遺伝子情報とゲノム情報はその殆どが分離・培養を経ていないものである。
- 古典的方法によって新種記載される微生物の数と、培養を経ないで得られる遺伝子情報や空いてされる種の数の情報は桁違いに開いていくばかり
3.なぜ多くの微生物は分離・培養が困難なのか
正解はいまだわからない
代表的な説には
- 既存の固体培地、液体培地に何らかの決定的な欠点や限界がある
- 倍加時間が極めて長い微生物の存在を見逃している(環境中に存在する微生物は実験室におけるバッチ培養のような典型的な増殖曲線に従って生育しない)
- 微生物の多くが他の生物(微生物、植物、動物)と密接な相互関係、共生関係にあり、単独で取り出すことそのものに本質的な限界がある
などが存在する
4.固体培地に用いるゲル化剤の影響
- ゲル化剤としての寒天が環境中からの微生物の単離に際して一定のバイアスを掛けていることを予測
- 中でも 10 年以上前に分離した Gemmatimonas aurantiaca という新門提案(Zhang et al., 2003)に至った微生物が寒天ではコロニーを作らず,gellan gum によって良好にコロニーを形成した
- 寒天(天草などの紅藻類が作る多糖類)とgellan gum (米国の企業研究開発グループによって Pseudomonas の菌体外多糖として見いだされたもの)の主要構成糖は異なる
- 湖沼試料において2つの培地の比較実験を行ったところ出現する微生物に大きな差が認められた(Tamaki et al., 2005)。
- またgellan gum 上でコロニーとして出現した微生物の方が,新規性が高い微生物であることが明らかとなった(Tamaki et al., 2009)
- これらから新規微生物あるいは培養困難な微生物を培養する場合、ゲル化剤には寒天より、gellan gumのほうが優れているという結論となった
5.思いがけなかった寒天培地の問題
- 上記の結論から5年後、寒天では増殖しなかったG. aurantiaca が寒天上でも極めて良好な生育を示した
- G. aurantiaca を培養するための培地のうちリン酸塩だけを別滅菌するだけでコロニー形成率が飛躍的に高まることを見いだした(Tanaka et al., 2014)
- 古くから活性酸素を消去するとコロニーの形成率が高まると言われている
- 過酸化水素(活性酸素の一種)の生成はリン酸塩を別滅菌したときにはほとんど生成しなかった。過酸化水素の生成はリン酸塩濃度依存的に増加した
- gellan gum の培地でも同様に過酸化水素の生成は認められたが,生成量は寒天
の場合に比べ低かった。 - これらの結果から,G. aurantiaca は過酸化水素ストレスに感受性が高く,コロニー形成率の差はゲル化剤の種類によるのではなく,培地の調製方法が大きな原因であることが明らかになった
- こうした培地調整における微生物の種類の要点は
- 河川、底泥、森林土壌のいずれにおいてもリン酸と寒天を同時滅菌によりCFUは大幅に減少する傾向が見られる
- 出現コロニーのPCRの結果から、リン酸塩と寒天を同時滅菌した場合、もともとの環境試料では非優占種である微生物種が顕著に優占種として出現することがわかった
- これまで培地調整にあたって過酸化水素を生むリン酸とゲル化剤の化学反応等を考慮した調整法が記されている文献は驚くべきことに皆無である
- こうした僅かな調整法の改良だけで微生物の固体培地における分離・培養が飛躍的に向上することは特筆に値する
6.あらためて固体培地における純粋培養とは
- 19世紀末に固体培地を用いた微生物の分離・培養が可能となる
- 一方この方法ではコロニーを形成しない微生物も多数存在した
- メタゲノムを取り扱うようになり純粋培養を用いず直接環境ゲノムを取り扱うようになった
- メタゲノムがある今、純粋培養に拘る必要はあるのか
- 私見を述べると、分離・培養とゲノム解析は相補的であありどちらかがかけても真実は得られない
- 純粋な微生物株があればこそできる生理学・生化学・分子生物学、それらをもとにした応用研究がある
ここまでこの総説の重要、わかりにくいとかんじたところを箇条書きで抜き出していったが、これをまとめたとは言えない笑
しかし一度読んでから文章を抜き出すことで理解度は増したのは感じられる
個人的には1980年代にペトリ皿を使った培養方法が現在まで大きく変わらず根幹となっていることに少し驚きました
現在はゲノム解析など簡単に環境微生物の遺伝子配列の解析が行える時代だがだからといって分離・培養法が軽視されるものではないことを理解した上で研究を行っていきたい
顕微鏡で菌体数のカウントはしたくないな~